花の名前を知らない権利 「実現しないこと」の美しさについて

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散文
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名前のないものを愛でられるはかなさ

Lynn GreylingによるPixabayからの画像

花の名前をあえて調べないことが好きだ。

なんだかわからないものをただ愛でるときの気持ちは、とてもよりどころなく心細いのだが、その代わり純粋な気がする。

「なんだかわからない綺麗なもの」として充分に堪能してから、満を持してその花をweb図鑑や書籍で探し、名前を知るようにしている。

もちろん名前は知らないので、季節や色などを足がかりに調べる。時間はかかる。

回りくどく不便なことは私にとって粋なのだ。

アガパンサスの名前はひょんなことで知ってしまった。

それまでは「この時期に咲くこの場所で見られるなんかかわいい花」という位置において数年愛でていた。

なんか「アガパンサス」という名前が私の中ではしっくりこない。濁音が入るビジュアルの花じゃなくないか?

正確な知識とともに、見るたび「絶対アガパンサスじゃない…」と、釈然としない気持ちも混ざるようになってしまった。

ただただ綺麗、かわいい、好き!という気持ちでこの花を愛でられるときはもう来ないだろう。

恐怖!!花の名前を調べられるアプリ!

一方、母は花の名前を調べたいタイプである。

花の名前を聞くと物知りさんたちが答えてくれるアプリがあるそうで、しばらくそれを使っては楽しそうに花の名前を調べていた。いいことだと思っていた。

ところがある日母が「これすごいの!」とスマホの画面を見せてくる。そのアプリでは花の写真を表示させると自動的にその名前が出るのだ。【Googleフォト】である。

おっ・・・

私の中の関西人が慄く。

・・・おっそろしい時代になったもんやで!!

この「調べ」なくても「知る」ができるアプリを見たとき、私は「便利だな」よりも、

母が以前使っていたアプリの持つ「人の知識とその人たちとの交流」が、こんなにあっさりお払い箱になるのか!と戦慄してしまった

もし、これに類する機能が全ての写真アプリに標準装備されたら?

ひいて「あらゆるものはすぐ知れた方がいいだろう」という考えが世の中に標準装備されたら?

このままだと充分あり得る気がする。

ここで必ず出る「嫌なら使わなければいい」というのは表面の問題。

真の問題はどうも最近、昔のものをより多くぶち壊す方がテクノロジーとしてイケてる!、の方向に開発畑が突き進んでいないか、ということだ。

恐怖!!赤ちゃんを実験台にする伯母さん!

姪がまだ乳児の頃、私は彼女にちょっとしたイタズラを仕掛けるのが好きだった。

少し困らせて、少ない知識と拙い身体でどう試行錯誤するのか見たかったのだ。

天井からバナナを吊るして箱を置いたりはしていないが(したかったが)

ヘロヘロ素材のぬいぐるみの腕同士を結んで「この子おててイタイよ!どうしましょ!」くらいのことはやっていた。

情緒を無視したテクノロジーの行く先とは、あの真剣な顔と腕を解こうとする小さいおてての試行錯誤を、ボタンひとつの手間で消し去るということである。

情緒的でない神の座す世界は静かな地獄

「テクノロジー=無粋!」というほど無粋ではない。

テクノロジーの発展で表現が可能になった新しい芸術もあるし、実際、多くの人が花の名前がわかれば喜ぶだろう。

テクノロジーは情緒の一面を新しい方法で表現することには役立つ。けど、その陰で数えきれない情緒も葬りさっている気がする。

利便はさまざまな需要を満たす一つの方法だが、唯一の正解ではない。

でも他の正解は利便に比べて手間がかかるので、検討に値しないとされやすい。

だが、他の正解を無視して利便こそ正義!と突き進んできたから、いま慌ててサスティナビリティとかSDGsとか右往左往する羽目になったのではないだろうか。

何かを大きく葬りさる者は、世界での立ち位置的にある種の神なのだから、絶対に情緒的でないといけないのだ。

情緒的でないまま葬り去る機能だけに長けたら、それこそ機械である。

「便利だからヨシ!」ではなく、葬り去ったものを感知するセンスはどうか傍において、

叶わないことの美しさに傷をつけず世界をよくする方法にもうちょっと思いを馳せてほしい。

私はADHDなので、私のような者のために開発された利便もあり有り難いのだが、それでもやっぱり、無粋なくらいなら障害が障害のままでいいと思うときがあるのだ。

この「便利だからヨシ!」がこのまま際限なく進んで

「口に入れる前に味を音声解説するスプーン」

「茉莉花茶の花開いときました」

「どこでもオーロラ発生機」

などが開発され、誰もそれを疑問に思わなくなったらどうしよう・・・

どうしもできない。そのまま何かがひっそり葬られた世で首を振り振り生きていくしかない。

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