良い行いをすれば死後に楽な世界へ行けるなんて誰が保証したの?そこは次の地獄への通過点に過ぎないかもしれないのに。もしくはそこが次の地獄かもしれないのに。
いまをときめく梨氏の「6」は、そういう本でありました。
怖い話ではよく「お憑かれさま」や第四の壁系のオチがありますが、現実の生活で怖がるのはせいぜい次の日の夜までくらい、その後は忘れるものですよね。
でもこの本は「忘れられない」根源的な恐怖の本でした。梨さん酷い。もうさん付けなんかしない。
鬼畜フルーツ!鬼畜フルーツ!お前のせいで一生怖いんだよ!!
考察がヘッタクソな私、無理はせず、各章を読んで感じたことや考察未満を書いていきます。たぶん間違っています。私を信じるな。
「ネタバレはギリギリしてないつもり」がコンセプトの当ブログですが、今回はネタバレしてるかもしれません。ゆえに読み終わった人向けです。
というか、どうすればネタバレorネタバレしないのか、この話もうわかりません!
「6」の目次と構成
今作「6」は6章構成となっており
- ROOFy
- FIVE by five
- FOURierists
- THREE times three
- TWOnk
- ONE
と、一つずつ移り変わりながら六道輪廻の世界「天上・人間・修羅・餓鬼・畜生・地獄」を描いている。
天上から地獄への話を1章ずつ読むことで、読者は地獄堕ちへの仮想体験ができるわけである。…いつか仮想じゃない体験もできるかもしれないし…
作中起こるあるトラブルによって、本来は死んでから移るはずの六道の行き来が容易になってしまったことに、全体を読み解くキーがある。
(未読の方、今作にはギミックが仕込まれているので読む前にペラペラ捲らないよう推奨する。大丈夫、怖い画像はない。)
ROOFy
「タダの幸せをもらえる場所がいつまでもあると思うな」を突きつけられる章。
天人にまで上り詰めた栄光の転生も
遊園地が象徴する「めくるめく天上の楽しさ」も
全てはいずれ腐りゆく。ペイントされた脱げない喪服みたいに、終わりが刻印されている。
「代償のいらない幸せ」があるなどと、信じる奴はアホの極み。梯子を急に外されて「あはっ あはっ こんなになっちゃった…」という顔で泣くしかないのだ。
語り手のあの子は概念の天上である遊園地から一旦境界に入り、「行き来の容易さ」によってちょうど腐敗を迎えた天上に出てしまったのだろうか。
まるで腐りゆくようなトイレに向かってしまったことが、末路に踏み込む「境界越え」だったのだろうか?
FIVE by five
ホラーライターがラジオアンテナ付き石塔「拠点A」を見つけるところから始まる章。
その後執筆したレポ原稿にフェイクを入れるほど「ヤバイもの」と感じた「拠点A」なのに、彼は再びそこへ向かってしまう。
これらの拠点は争いと怒りのファクターとして設置されたものなので、そこに向かってしまうのは修羅界に惹かれているということ?
最終章で再登場する彼はまず人の世界から修羅の世界へと、簡単に行き来できるようになった輪廻に乗り、この時点で「下がり始めて」いるのだろうか?
FOURierists
ミニFMラジオの発信源を夜の山に探しに行った大学生の末路の章。
聞いた人間がおかしくなってるラジオの発信源を調べに行くなんて、もう帰らぬ人になっても仕方がない愚行なのである。
(大学生ってなんでこんなにオカルトの犠牲になるに素晴らしい素材なんでしょう。浅はかな上に高校生より行動範囲を広げられるから?会社員や主婦が連れ立って肝試しに行って行方不明、って話はあんまり見ませんよね)
おそらく前章の人たちが建てた建造物(拠点B?)に境界を越えて迷い込んでおり、「誰かを」怒らせようとするファクターにまんまと組み込まれている。
場面は変わって章の後半、ラジオから流れてくる女性の声と、「いいですね!初めてにしては―」の声のフォントが、よく見ると通常フォントと微妙に違うことにお気づきだろうか。
Five by fiveで自殺の話をしてくれた女性=DJの女性なのかなと思ったけど、自殺の話のフォントは通常フォントなので、単に「放送音」を現すフォントなのだろうか。
そうすると、どういう形で電話に混ざっているのだろう?
(でも屋上遊園地の「放送音」は通常フォントなんだよな・・・謎だ・・・)
THREE times three
能力開発セミナーに人を引き込んで洗脳し、依り代とする手法を解説したマニュアル形式の章。
親が過去に宗教にハマっていて、こういうセミナー(もっと人道的だったけど)に入れられたことがあるので、個人的には臨場感では済ませられないものがある。
本当に、疑いの気持ちを持つなんて自分が悪かったのだ、幼稚だったのだ、頑固だったのだ
それを捨て去った今は晴れ晴れしい「生まれ変わり」なのだ、と心から思うようになるから困る。
まぁ、畜生を憑依させる種苗にされるよりはだいぶんマシだけど…
また、毎日自律訓練法をしている身からすれば「解除誘導を行わない」の注釈はジワっと怖かった。自律訓練法はきちんと解除をしないとリラックス状態と覚醒状態の切り替えがうまくできなくなるのだが、その混濁をあえてリセットさせないことに、依り代をつくるコツがあるのだろう…
TWOnk
「何度も死んだ」あの男の子は、ぜんぶの世界を見たのかな。
そして、どこに行ってもそこにある(ない)ものを知ってしまったのかな。
そうしてスパイラルに破壊的イノベーションを起こそうとし……とんでもないものを破壊してしまったのかな。
Twonkという言葉には「ばかなやつ」「愚かで浅はか」という意味があるそう。
ONE
前5章の答え合わせとなる章。すごいぞ!梨ワールドなのに今回はちゃんと解説がある!!
ここはゆっくり読んでいただきたいのでコメントを控えるが、私としてはこの章を読んだからわからなくなっちゃったことが一つある。
「THREE times three」で「多くの離反者を出してしまった」と記載されている資料にあの書き込みがあることと、ここで説明されている3階で起こった分裂の時系列が合わない気がする。
3階の方々はあれで懲りずにさらにヤバい失敗を重ねたということ?
また、この章を読み終わったあとに改めて表紙を見ると、すごくイヤ〜な気持ちになれる。
梨氏「6」を読み終わって
そうでした、そもそも六道はどれも苦しみの世界ってことになってるのでした。
徳を積んだ先に楽があるなんて、冷静になってみれば単なる希望的観測なんでした。
でもそんな怖いこと耐えられないじゃん!苦しみは生きてるうちだけで十分じゃん!
と震えた私、図書館から「[アセンション版]地球の『超』歩き方 パラレルワールド未来地図付き (超☆わくわく) 」という、そこまで逆方向に振り切らんでも・・・な本を入手しました。
私はあがくぞ。この本に没頭して鬼畜フルーツのことは忘れるんだ。未来で遭う苦しみからひと時でも目を逸らすために…
余談
読み終わった人にしかわからない恐怖をおすそ分けしますが…
私は現在のマンションに10年住んでおり、こちらのエレベーターでアナウンスを聞いたことはないのです。が、この本を読み終わった日にエレベーターに乗ったら、この10年でただ一度きり、女性の声で「足元にお気をつけください」のアナウンスが流れた…
いやっ!おそらく!(←なんとか理由をつけようとしている)扉の通るレールをちょっと蹴ってしまった時に限りアナウンスが流れる仕様なのかもしれない!けど、あやうくエレベーターの床を水浸しにするところでした。水浸しにする45歳になるところでした……
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