散文集でなりたった一編「葉」です。太宰治全集文庫版なら、第一巻の第一編め、トップバッターとなります
たぶん「走れメロス」で太宰治を知って文庫を買ってみた人なら、これを読むと「んっ?」となるはず
なぜなら文庫19ページ分、目立ったストーリーはなし。他作品から抜粋した短い散文や短編の羅列だからです。だからたぶんタイトルが「葉」なのですね
しかしやはりその文章は、たとえ一行だとしても太宰独特の儚さ美しさをたたえています
われは山賊。うぬが誇をかすめとらむ。
生まれてはじめて算術の教科書を手にした。(中略)ああ、なかの数字の羅列がどんなに美しく眼にしみたことか。少年は、しばらくそれをいじくっていたが、やがて、巻末のペエジにすべての解答が記されているのを発見した。少年は眉をひそめて呟いたのである。「無礼だなぁ。」
妻の教育に、まる三年を費やした。教育、成ったころより、彼は死のうと思いはじめた。
ストーリーを追うためでも、意味を読みとるためでもなくて、ただ紡ぎの美しさだけを堪能する一編と言ってもいいでしょう。例えば静かなカフェで、ショットバーで、世界は本と自分だけ。そういうシチュエーションでお読みいただきたいのです
様々な文学評論家がこの散文集においての太宰の思惑を分析していますが、一般読者はただこの退廃の空気に流されるのが一番酔える楽しみ方だと思います
物足りなさはありません。ストーリーのある太宰の作品とはまた別の部分が満たされる、満足できる一編でした
この人がTwitterをやってたらたぶんこんな感じ。フォロワー多いけどTLには鬱陶しいからミュートされてそう。そしてたまにホームに訪問されて一気読みされてそう
ただ、ここまで褒めておきながら一点、疑ってることがあるんですよね。確かにこの作品は美しいし、私はこの作品が好き。評論家によればちゃんと意図も意味もあるそうだけど、これはバロウズにおける「裸のランチ」と似た性質の作品だったのではないか・・・・・・
・・・・・・つまり治くんさぁ、これ作ったとき酔っぱらってなかった?
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